『奇跡』実現可能性検証(2015年5月)撮影・編集:松尾健太
 

奇跡

 

作曲・指揮:灰野敬二
演出・設計:危口統之

 

演奏:愛甲太郎、青木理紗、青山稔、網守将平、綾門優季、安藤唯、石堀善子、市原亮、伊藤洋志、今村真紀、上田由至、上原英二、宇川直宏、遠藤純一郎、及川志穂、大口遼、大沢直樹、岡田拓也、岡田勇人、岡村直太、岡村裕次、岡本ゆうき、貝塚伊吹、垣谷文夫、角銅真実、加藤みほ、上村聡、上村大悟、川口雅巳、河田美香、菊地啓介、木下毅人、木村瞳、ニコル・ギャラガー、楠田ひかり、工藤浩巳、久野ギル、マイク・クベック、栗田一生、黒澤雅俊、ケンジルビエン、剣持寛子、コウダケンタロヲ、小林このみ、小林類、小柳多央、小山まさし、近藤和明、佐々木ののか、佐藤英里子、柴田聡子、嶋崎朋子、島田果奈、島貫泰介、清水享、城李門、白藤清純、新川貴詩、鈴木英倫子、鈴木恒彦、鈴木朋子、鈴木美紀子、寿美雄太、たかはしそうた、高橋貴子、高山玲子、竹田英昭、武谷あい子、玉柳輝樹、辻勇樹、辻村優子、中田博士、中野成樹、中元徹、中山晃子、西井夕紀子、Yuko Nexus6、捩子ぴじん、野津あおい、林歩美、原田淳子、H.I.G.O、平田知之、福井豊、福田絵里、ホシマリ、前島ももこ、眞木修、松井祐次郎、松本晴朗、三浦翔、三鶴泰正、宮崎輝、ミヤムラヤスヲ、森夕雨子、森川あづさ、森重靖宗、矢野昌幸、山崎怠雅、山田哲士、山本寛介、吉家あかね、𠮷田アミ、吉田萌、善積元、吉水佑奈、和田信一郎

 

設計施工:石川卓磨、河本洋介、井出亮太、山本ゆい
調律:岩本尚子(株式会社松尾楽器商会)
打鍵検出回路:堀尾寛太
舞台監督:佐藤恵
制作:藤井さゆり
ケータリング:菅野信介、橋本富夫(アマラブ)
記録:中村公輔(録音)、松尾健太(映像)、前澤秀登(写真)
協力:有馬純寿、田部井美奈、イトケン

 

10月2日(金)19:00開場/19:30開演

前売 2,500円/当日 3,000円

前売お取り扱い:Peatix

 

構想40年、灰野敬二初の「作曲」はジョン・ケージ『4分33秒』への最終解答

 

もともと「即興」という概念や「能動/受動」という二項対立を無効としている灰野敬二にとって、「作曲」と「演奏」の間に本質的な境界はありません。それでも40年間あたためていたというこの『奇跡』は、ジョン・ケージ『4分33秒』、その「続編」『0分00秒』、そしてそれらの無数のヴァリエーションへの応答として「作曲」され、今回サウンド・ライブ・トーキョーで世界初演されます。会場はもちろん、『0分00秒』がケージ本人によって1962年に世界初演された草月ホール。

 

第一楽章 休止
第二楽章 休止
第三楽章 休止

『4′33″』(1952 [1]

 

最大限の音響的増幅(フィードバックが起こらない範囲で)が施された状況で、習熟した行為を行なうこと。

『4′33″ (NO. 2) (0′00″)』(1962 [2]

 

これらに対して灰野の「作曲」の内容は、88人の演奏者がそれぞれ1本の指で、1台のピアノの88鍵を同時に弾くというもの。灰野の「一音」という理念が反映するこの徹頭徹尾具体的な行為には、明らかに物理的な困難が伴います。どうすれば88人もの人間が幅約120cmの鍵盤の周囲に集まることができるのか。また、ピアノの88鍵という有限性を汲み尽くすこの行為、それに伴うと予想される88の身体の折り重なり、ねじれ、圧迫、痙攣、吊り下がりは何を意味するのか。そして88本の指で同時に鳴らされる音はどのように響くのか。

 

搬入プロジェクト』の実績と建設現場での揚重工としての労働から得たノウハウを活用し、演出家・危口統之が手段を選ばず、厳粛に、かつ安全を確保しながらこのタスクを遂行します。危口の計算では「奇跡」の起こる確率は5分5分。

 

Drawing by Noriyuki Kiguchi

 

音を作曲者・演奏者の「意図」から解放し、「聴く」行為とその対象の無際限の拡張を時間的に分節する『4分33秒』、時間の枠さえ排して「あらゆることが起こりうるように、起こることすべてが受け入れられるように [3]」仕掛けられた『0分00秒』、その背後にある禅、平和主義アナキズム、テクノロジー礼賛、毛沢東主義、残酷演劇、エコロジーが融合した奇妙な思想は、現代のパフォーマンスやコミュニケーションを支えかつ規定している世界観の成立に、少なくとも象徴的に、少なからず寄与しています。その現状に対して、「音楽依存症」にして「本質的には歌手」を自認する灰野ケージが満を持して巻き起こす、汲めども尽きぬ問題提起と「奇跡」の瞬間をお見逃しなく。ご来場のみなさまにはもれなく『奇跡』のサイン入り楽譜をプレゼント。

 

Photo by Kazuyuki Funaki

 

Photo by Kazuyuki Funaki

灰野敬二|1952年、千葉県生まれ。1970年、エドガー・アラン・ポーの詩から名を取ったグループ「ロスト・アラーフ」にヴォーカリストとして加入。また、ソロで自宅録音による音源制作を開始、ギター、パーカッションを独習する。1978年にロックバンド「不失者」を結成、ハードロックに全く新しい強力で重層的な次元を切り開く。1983年から87年にかけて療養のため活動休止。1988年に復帰して以来、ソロのほか不失者、滲有無、哀秘謡、静寂、Vajra、サンヘドリン、Nazoranai、Hardy Soulなどのユニット、Experimental Mixture名義でのDJ、セッションや他ジャンルとのコラボレーションなど多様な形態で国際的に活動を展開。ギター、パーカッション、ハーディ・ガーディ、各種管弦楽器、各地の民間楽器、DJ機器などの性能を研ぎ澄まされた身体性と独自の演奏技術で極限まで引き出し生み出される比類のない音は、超越なきシャーマニズム、荒れ狂う知性と認識に満ちている。170点を超える音源を発表し、確認されただけでも1500回以上のライブ・パフォーマンスを行なっている。

 
 

 

 

危口統之|1975年、岡山県生まれ。1999年、横浜国立大学工学部建設学科卒業。大学入学後演劇サークルに所属し舞台芸術に初めて触れるも卒業後ほどなくして活動停止、建設作業員として働き始める。周囲の助けもあって2005年あたりから断続的に活動再開。2008年、デザイナーや建築家の友人たちとともに、演劇などを企画・上演する集まり「悪魔のしるし」を結成、単なる演劇作品つくりにとどまらない、宣伝美術から舞台装置までも含む、演劇公演全体をひとつの表現形式として活用するスタイルで注目を集める。また、工事現場での労働から発想を得たパフォーマンス作品『搬入プロジェクト』は、国内外各地の演劇祭・芸術祭に招聘され好評を博している。他の主な作品に、『禁煙の害について』、『悪魔のしるし』、『わが父、ジャコメッティ』など。2011年、トーキョーワンダーサイト国内交流プログラム参加。2014年度よりセゾン文化財団シニアフェロー。ほんとうは危じゃなくて木。

 

[1] この形式の「楽譜」が書かれたのは1960年。

[2]「ケージは机に向かって座ると同作品のインストラクションを紙に書き始め、その筆記音がペンに装着されたコンタクト・マイクを通じてホール中に増幅された(そのとき書かれた紙が、後にこの作品の「楽譜」として出版された)」ポール・グリフィス(堀内宏公訳)『ジョン・ケージの音楽』(青土社、2003年)165頁

[3] ジョン・ケージ、ダニエル・シャルル(青山マミ訳)『ジョン・ケージ 小鳥たちのために』(青土社、1982年)167頁