...そして楽しみというものは、いま個人が追求できる数少ない人間的価値のひとつだと思う。あらゆる人間性は、喜びのうちに、ひとつの実体に還元され得るのかもしれない。それがあらゆる芸術の始まりなのかもしれない。自分が何を言っているのか分からない。
もう一度言って。
自分が何を言っているのか分からない。
もう一度。
自分が何を言っているのか分からない。
(Jacob Wren, Unrehearsed Beauty, p. 82, Coach House Press, 1998)
「公共空間」の概念を問う観客参加型・フォーラム形式の演劇作品『アンリハースド・ビューティー/他者の天才』で、PME-ARTの一員として2003年に初来日したモントリオールの作家/演出家、ジェイコブ・レン。彼は無名のシンガー・ソングライターでもあり、1985年から2004年にかけて誰に聴かせるでもなく58曲を作曲しています。『私がこれまでに書いたすべての歌』は、
- その全曲が聴け、歌詞が読め、ダウンロードでき、誰でも好きな曲をカバーしてアップロードできる「ウェブサイト」
- ジェイコブが全曲を年代順に歌う約5時間半の「ソロ」
- 地元のミュージシャンがジェイコブの曲をカバーする「バンド・ナイト」
- 観客がジェイコブの曲を歌う「カラオケ・ナイト」
を通して、完全に私的な「誰も欲しがっていない歌」を共有する、インターネット時代の最先端をゆくプロジェクト。
投げ銭制・途中入退場自由の「ソロ」は、慎ましい自伝的演劇か、20世紀末〜21世紀初頭の世界を個人のフィルターを通して浮かび上がらせるドキュメンタリーか、世界中の知られざるシンガー・ソングライターに捧げるコンセプチュアルなコンサートか、あるいは単にやりたいからやっているのか判別不能な全く新しいパフォーマンス。いずれにせよ、『アンリハースド・ビューティー/他者の天才』が当時そうしたように、現代における「パフォーマンス」のひとつの極限を提示することは間違いありません。
地元のミュージシャンがゲスト出演し、ジェイコブの曲を自由な解釈で演奏し、歌について、それに関わるさまざまなトピックについて彼と対話する「バンド・ナイト」には、ジェイコブが最も影響を受けたミュージシャンというモーマス(大阪在住)、モントリオールのレコード店で『夜の稲』(2001)を見つけて何度も何度も聴いたという工藤礼子、コラボレーションを重ねている「劇団としてのバンド」マヘル・シャラル・ハシュ・バズ、他1組(後日発表)灰野敬二の新しい英語カバーバンドThe Hardy Rocksを迎えます。同時通訳つき。
Band Night at Baltic Circle Festival, Helsinki
「カラオケ・ナイト」は終演後に会場近くのカラオケボックスでできるかもしれませんので、歌いたい方はお申し出ください。