Antigone Dead People
録音された台詞で展開する、現代の、預言者不在の『アンティゴネー』
トロントを拠点とし、「信頼」「服従」「気前が良い」「厳格」「リスク」「大きい」「安い」「演劇」をキーワードに活動する「ほぼ劇団」Small Wooden Shoeによる、現代の、預言者不在の『アンティゴネー』。2012年にトロントの実験音楽の拠点のひとつThe Tranzac Clubで初演されました。登場人物は最初から全員死んでおり、彼らが自分は死んでいると気づいていない間は録音された台詞が使われます。新進サウンド・アーティスト、クリストファー・ウィレスが音響を担当。ソフォクレスにおけるトロイア戦争、米軍のPTSDセラピー、Skypeをアフガニスタン経由で結びつけた『Little Iliad』[小イーリアス] とその続編『Ajax』[アイアース] で国際的に注目される若手劇作家、エヴァン・ウェバーの書き下ろしです。「腐敗しているが実際的であろうとする国家と理想主義的な個人の際限なく繰り返される対立が、ある種のカラオケ・トラックとして提示される」(ウェバー)。亡霊たちの演じる『アンティゴネー』。彼らが死後も2,000年以上に渡って演じ続けているこの物語は、すでに摩耗し、脱臼し、ソフォクレス版(紀元前441年ごろ)とは異なる意味合いを持つようになっています。さらに亡霊たちは、自分たちが別の物語を語ったらどうなるか考えはじめるに至ります。「数ヶ月、数年に渡ってプロジェクトに取り組む共同作業者たちのコミュニティは、必要とあれば20分で芝居を作り、その夜に上演することもできなくてはならない」と断言する演出家ジェイコブ・ズィマー率いるSmall Wooden Shoeが、録音された台詞の実験的活用において彼らに先んじ、近年評価を固めつつある関西拠点の公演芸術集団dracom/筒井潤との1週間の短期集中共同作業で作り上げる日本版、世界初演です。英語/日本語上演、日本語/英語字幕つき。ハードな劇をライブハウス/ラウンジのソフトな環境で、ブレヒトの「喫煙劇場」よろしく(客席で喫煙はできませんが)、お気軽にお楽しみください!
作:エヴァン・ウェバー|演出:ジェイコブ・ズィマー、フランク・コックス=オコネル|共同演出:筒井潤|出演:キタノ万里(死んでいるアンティゴネー)、村山裕希(死んでいるクレオン)、フランク・コックス=オコネル(死んでいるポリュネイケス)、吉田庸(死んでいるハイモン)、鎌田菜都実(死んでいるイスメーネー)、小坂浩之(死んでいる番兵)、エヴァン・ウェバー(死んでいる泣き屋)、山口惠子(死んでいる泣き屋の死んでいる弟子)|声の出演:*初演キャスト参照|舞台監督:尾崎聡|音響:クリストファー・ウィレス|セノグラフィ:トレヴァー・シュヴェルナス|衣装:ヴァネッサ・フィッシャー|仮面:シェリー・ヘイ|マネージメント:エイミー・ヘンダーソン、内山幸子|翻訳:原真奈美、新井知行|字幕:新井知行|スタッフ:小嶋謙介|共同制作:Small Wooden Shoe、dracom、EW & FCO|記録:松尾健太(映像)、新井知行(録音)、前澤秀登(写真)
初演:2012年10月18日、Tranzac、トロント|キャスト:Maev Beaty(死んでいるアンティゴネー)、Philip Shepherd(死んでいるクレオン)、Liz Peterson(死んでいるイスメーネー)、Frank Cox-O'Connell(死んでいるハイモン)、Sean Dixon(死んでいるポリュネイケス)、Sky Gilbert(死んでいる泣き屋)、Lindsey Clark(死んでいる泣き屋の死んでいる弟子)、Antonio Cayonne(死んでいる番人)|協力:Leora Morris、Trevor Schwellnus、Christopher Willes、Matt Smith、Vanessa Fischer、Marcie Januska、JP Robichaud|制作:Small Wooden Shoe|共同制作:Theatreworks Productions|制作協力:Theatre Passe Muraille、Buddies in Bad Times Theatre、The Theatre Centre|助成:The Ontario Arts Council、The Canada Council for the Arts、Toronto Arts Council
演出家、作家、ドラマトゥルク、パフォーマー。ケープ・ブレトン島生まれ、ハリファックス育ち、現在トロント在住。サイモン・フレーザー大学現代芸術学科修士課程で演劇を研究。ウースター・グループでインターン。アン・ボガート/SITI Companyで「Viewpoints」「Composition」および鈴木メソッドを学ぶ。新人演出家に贈られるKen McDougall Awardを2008年に受賞。Small Wooden Shoeを設立した他に、ダンスの分野でもDancemakers、Ame Henderson / Public Recordingsの活動にドラマトゥルクとして関わる。トロント・フリンジ・フェスティバルのリサーチリーダーとして「私たちが支持できるポピュリズム」を考察。
ジェイコブ・ズィマーがハリファックスで2001年に設立、現在トロントを拠点とする「ほぼ劇団」。名称はフランス語の「sabot」(サボ=木靴、フランスの労働者がストライキで機械を故障させるために使ったことから「サボタージュ」の語源とされる)から。さまざまなバックグラウンドのコラボレーターから成り、作品は少人数の私的パフォーマンスから叙事詩的なものまで幅広い。「よい思想には娯楽性がある」との信念のもと、ブレヒトの自らによる新訳を使った大規模なリーディング公演『Life of Galileo for Tracy Wright』、難易度の高い戯曲のリーディングと簡単に歌える歌を組み合わせた『Difficult Plays and Simple Songs』、ラジオの生放送『The Fun Palace Radio Variety Show』、20世紀初頭の炭坑労働者の運動に関するキッチンでの観客との直接対話『Sedition, or Kindness Makes Me Cry Like Nothing Else』、科学革命についての演劇的レクチャー『Dedicated to the Revolutions』、朝から晩までパネリストもレクチャーもなしで展開する「脱会議」、クリスマス・コンサート、オンラインのシンクタンク、市民集会、ワークショップ、レクチャー、出版など多様な形態で活動している。
筒井潤
演出家、劇作家、パフォーマー。1997年大阪芸術大学大学院修士課程修了。2007年dracom『もれうた』で京都芸術センター舞台芸術賞受賞。2014年セゾン文化財団セゾン・フェロー。dracomでの劇作・演出の他に、演劇計画2008(ソン・ギウン作『小説家仇甫氏と京城の人々』リーディング演出)、高槻シニア劇団、桃園会、We dance、Dance Fanfare Kyoto、Dance Box「新長田のダンス事情」などのプロジェクトやグループに関わり、山下残、松田正隆/マレビトの会、きたまり/KIKIKIKIKIKI、松本雄吉/維新派、羽鳥嘉郎などの作品に出演。
ドラカンと読む。1992年に劇団ドラマティック・カンパニーとして大阪芸術大学の学生が中心となり旗揚げ。1998年にdracomと改称。劇作家/演出家、筒井潤をリーダーに、「祭典」と呼ばれる本公演を年に1度行う。これまでの「祭典」に、劇場をレンタルしている時間をフルに使った20時間の作品『Green』(2003)、キーワード「ハムレット」で検索して集積したインターネット上の情報をコラージュした『特集・ハムレット』(2004)、あらかじめ録音した台詞と俳優の身体パフォーマンスのずれが奇妙な感覚を生み出す実験的ミュージカル『もれうた』(2007、京都芸術センター舞台芸術賞受賞)、あるスポーツのルールを他のスポーツに適用しようとする若者たちの物語『ハカラズモ』(2008)、会津若松市で起こった母親殺人事件とアイスキュロスのオレステイア三部作に着想を得た『事件母(JIKEN-BO)』(2010、フェスティバル/トーキョー公募プログラム参加作品)、ソフォクレス『アイアース』と自殺を試みて家の前のどぶに落ちた老人の実話を結びつけた『gutter』(2011)、キャンプ用のテントで10〜15人の観客のために上演された『方々ノ態(in OSAKA, Kitakagaya)』(2013)など。